島の風に吹かれながら「気づく力」と「手のひら」の感性を育てていく、
新人セラピスト・宙の小さな成長物語。『そらいろスパ日和 〜宙のてのひら物語〜』がWEB上でスタート。忙しい毎日で少しだけ疲れた時に、そっと覗きにきてください。心も体も優しくほどけるような、そらいろの便りをお届けします。
今回は宙がエアリーリーフに来たきっかけの続編です。
STORY16「浅葱色 〜 海のむこうへ 〜」
「心にふれるサロンを、一緒につくりませんか?」
その一文が、心の奥にすとんと落ちた。
まるで、誰かが静かに手を差し伸べてくれたようだった。
その日は、何の予定もなかった休みの日。
回復のためだけに過ごす休日が、いつしか当たり前になっていた。
昼を過ぎても、カーテンは半分閉じたまま。
部屋に差し込む光も、どこか他人事のように感じた。
ソファの上で、なんとなく開いたスマホの画面。
ふと目に入ったのが、Airy lief の求人投稿だった。
「“心にふれるサロン”を、一緒につくりませんか?」
ほんの一瞬だけど、
胸の奥がドクンと鳴った。
スクロールを止めたまま、指先が震える。
その言葉に触れた瞬間、
なぜだか涙がこぼれそうになった。
宙は思った。「こんなふうに、わたしの中の“誰かのために”が…
もう一度、呼吸を始めた気がした」
東京のスパでの仕事は、たしかに誇れるものだった。
ブランドの一員として磨かれ、
プロとしての自覚もプライドもあった。
でも、それと引き換えに、
“わたし自身の声”は、どんどん小さくなっていった。
朝から晩まで、施術の連続。
メニューは決まっていて、やるべきこともマニュアル通り。
提案しても、「うちのブランドには不要」と笑われた。
手は動いてる。でも、心が、どこにあるのか分からない——」
ある日、空を見上げた。
ビルの谷間にほんの少し見えた空が、
やけに遠くて、
そして、なぜか恋しかった。
「行ってみたい」
「いや、行きたい」
「…ううん、行こう」
その夜、
仏壇に飾られたおばあちゃんの写真に向かって、そっと言った。
「おばあちゃん、ごめんね。でもいってくるね。」
出発の日の朝。
羽田空港の窓から見える空は、
不思議と、浅葱色に染まっていた。
都会の喧騒とはまるで違う、
優しい風の色。
飛行機が滑走路を離れるとき、
胸の奥がぽかんとあたたかくなった。
「ようやく、私の呼吸がもどってきた・・・」
そして・・・
石垣島に降り立ち、その空の広さに、足が止まった。
どこまでも抜けるような青。
湿った風。
鳥の声。
そして、見知らぬ風景に、なぜか“なつかしさ”を感じた。
エアリーリーフのサロンの扉を、初めて開いた日。
「ようこそ」と言ってくれたのは、
まだ見ぬ光さんの声だった。
宙は思う。
「この場所でなら、“わたし”でいられる」
「この手で、また誰かを包めるかもしれない」
その日、宙の手は、
またふたたび、“心”に触れる準備を始めていた。
つづく 次回は10/12 更新予定